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(完結作品)

作: 風雲

盛夏、祭りの夜のこと。


夜風がひんやりと、火照った体をさますようだった。その温度が快くも、名残惜しかった。

祭りの一角から少し離れた川沿いに、僕らは座っていた。彼女は祭りで取った赤と黒の金魚が入った水袋を手に持っていて、僕はそればかりを見ていた。少し顔を上げれば、まだ続く祭りの明かりが視野の片隅に見え、彼女の顔はおぼろげながら、浮き立つかのようにくっきりと見えた。けれど僕は、まるでものを考えている人かのように、彼女の手元の赤と黒を数えうつむいていた。
 時折僕は、彼女は何を考えているのだろうと思うと顔を上げ、それも半ばに祭りの灯篭の明かりに目を持っていくのだった。

近くで見るよりも、遠くで見たほうが風流だな、灯篭の火を見て思う。そんな取り留めのないことばかりが、頭に浮かんだ。


炎が揺れる。


--きっと、あたしたちはああいうふうに生まれてきたんだろうね

彼女は言った。彼女の目を見ればそこには、灯篭の、その炎のゆれが映っていた。そして僕が彼女の目を見るのを見越していたかのように、彼女はすぐさま僕の目を見た。思った以上に深みのある瞳に、僕はなぜか、焦った。

--淡いなぁ、と思って

彼女は僕の目を見たまま続けた。そしてもう一度灯篭に目を移した。

-そっと生まれて、静かに消えていくんだね。灰だけを残して

彼女は少しうつむいて、だから、その目は見えなかった。
僕は何も言わなかった。じっと炎のゆれを見ていた。僕の目にも、彼女と同じように淡いそのゆれが映っているのだろうか、と考えた。


彼女はゆっくりと立ち、川に向かって歩いていった。僕も立ち上がってその背を追いかけた。
彼女は川と石の境界まで来ると、浴衣の裾を持ち上げるようにして、それから下駄を脱いだ。僕が、何を、と言う前に彼女は足のくるぶし辺りまで川の中を一歩、二歩と歩いていった。僕は、少し悩んで、けれど彼女に習って川の中を数歩歩いた。
 僕が彼女に近づくと、彼女はかがんで、手に持っていった水袋を川に向けて開けた。
 僕は、あ、と言った。赤と黒の金魚は川下へ、流されているのかのように泳ぐ。やがて、見えなくなった。

-どうなると思う?

彼女は問うた。僕は胸が痛むように感じた。川を行くその魚たちは、とおく灯篭の明かりに映し出され、美しく、儚かった。
 分からない、と僕は答えた。彼女は何も言わなかった。僕は彼女の肩に手を触れようとして、やめた。ただ彼女の姿を目に納めた。暗く、消えてしまいそうな宵に、彼女がまぎれないように、と願った。


彼女は魚の消えた先、川の向こうをずっと見ていた。僕はその横に立って、灯篭の、その揺れる炎をずっと見ていた。

※この小説(ノベル)"宵"の著作権は風雲さんに属します。

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