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黒い渦? (完結作品)

作: Hareruya

病院から帰ると美香は洗面台の前に立った。
化粧を落としたあと、再びファンデーション。夜の自分は昼の自分とは違えば違うほどいい。眉は茶色から黒へ、つけまつげは長めのものを選んだ。作業が終わると、日中ほぼ一緒にいる病院の同僚でも美香とは分からない美香になった。

どうしてだろう、こうなったのは。白いコートを着ながらふと思った。ここ最近、人生を振り返ることが多くなった。ただ、もう出直すには遅いのかもしれない。自分は何も知らないまま年をとった。
大学を卒業したあとは東京の小さな商社に就職した。悪くない職場だったが、上司や同僚との肌があわず、2年も経たずに辞めてしまった。ちょっと前に流行った「ブラック企業」とは違って、上司も面倒見がよかった。ただ、周りの友達が名の知れた企業で奮闘しているのを見て「自分は?」と思ったときに、会社を去ろうと思った。

そしていつの間にか今の場所にいた。昼は病院で事務をしているが、給料は手取り10数万。周りの同僚は結婚している人が多くて小遣い稼ぎの気分で働いているようだったが、独身の美香は生活を維持できない。いまさら親の面倒になるのも気がひけたので、新たな職を探している中、ネットで見た「高収入」という広告がきっかけではじめたのが風俗の仕事だった。

午後6時。梅田駅に到着すると、トラの絵がらの入った黄色と黒の縞模様のシャツを来た大人たちが、同じようなシャツを着た子供の手をひいて歩いていた。子供は首からメガフォンを提げて、無邪気に笑っている。かつて自分もああいう時期があったのか。あったとしてもそれは遠い昔の話で、美香は霞んだ記憶を探るのをやめた。
駅から5分ほどの飲み屋街。スーツを着た男たちが酔っ払いを勧誘する合間を縫って、美香は雑居ビルの一角にある店に入った。蝶ネクタイをした男にあいさつをして待合室に入る。

隆が結婚したという情報を見たのもこの場所だった。フェイスブックで学生時代からつながっていたが、連絡を取り合うということもない。隆は頻繁に近況を報告するタイプではなかったが、10日ほど前だっただろうか、久々に隆が投稿したのは、「結婚しました」というものだった。一緒に投稿された結婚式の写真で、隆の隣に写っている女性を、美香は知らなかった。おめでとう、とコメントを残すべきか迷ったが、「いいね」というボタンを押すに留まった。

火曜日の夜は来客も少ない。
美香は少し角の磨り減ったヴィトンの鞄からスマートフォンを取り出すと、ネットを立ち上げた。お気に入りの下から3つ目、「みんなの詩」という項目に触れると、なじみのサイトへ飛んだ。美香が本音を語れる、唯一の場で最後の砦だった。化粧をした自分はニセモノで、本物の自分はここにいる、誰も知らないけれど。
本心では化粧をした自分が自分そのものなのだと気づいていた。空っぽで、他力本願で、社会に出るまでは適当に過ごしてどうにかなっていたけれど、その後は荒波にさらされ沈んでいった自分。現実逃避で行き着いた先がここだった。

美香はもてあました時間で詩を綴った。
タイトルは「今になって」。


しばらくすると、蝶ネクタイをした男から声をかけられた。
「指名入ったよ、よろしくネ」
美香はすっと立ち上がると部屋から出て行った。




待合室の無音のテレビでは野球中継が流れていた。
注目のルーキーがホームランを打ったが、乾いた心地よい音はもう美香には届かなかった。

※この小説(ノベル)"黒い渦?"の著作権はHareruyaさんに属します。

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