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トンネルの女 (完結作品)

作: Hareruya

秋田と岩手を結ぶ国道46号線を走っていた。
東北の田舎道らしく、時折すれ違うトラックと、道路工事が目立つ。右へ左へと曲がるカーブに差し掛かるたびに速度を落とさなくてはいけない。
視界を悪くする雨の降るの中、営業帰りの田畑幸一は少し焦っていた。盛岡に着くのは日付が変わった1時過ぎになるだろう。交際しているカオルの待つ家に着くのは2時だ。社内の部署で一番の下っ端。遅くなるのはかまわない。ただ、逆算すると県境を過ぎて岩手に入るのは午前0時。奥羽山脈を貫く岳石トンネルを、その時間帯に通ることはもともとこの地域の出の田畑にとってあまり乗り気なことではなかった。

どこにでもある話だ。「トンネル近くで美しい女が現れる。その女は乗せてくれと手を上げるが、決して車を止めてはいけない」。
岳石トンネルもその類のうわさがよく囁かれる場所だった。
国道にあるとはいえど、人より熊のほうが多い地域で通行量は少ない。さらに過疎化も進み、住宅はあまり見当たらない。トラックの運転手や観光客を相手にするコンビニエンスストアは点在しているが、山あいに近づけばそれすらもなくなってしまう。加えて事故も多い場所だ。冬場は山から吹く冷たい風と雪で道路が凍り、通行する車両の少ないことにかまけて、スピードを出しすぎて滑走し、死亡する事故のニュースがよく流れていた。
要するにお化けがでるにはうってつけの場所だ。

ただ、岳石トンネルの噂話は、ほかのトンネルのそれとは少し異なっていた。少なくとも幸一はそう感じていた。
それは子どもではなく、大人が話していたことだった。幸一はこの話を祖父から初めて聞いた。そしてその後は父からも聞いた。当然、母も知っていた。いい年をした大人たちが「夜遅くには岳石トンネルは通るな」とある種の宗教のように語り、忠実に守っていたのだ。
幸一も知らず知らずのうちに岳石トンネルに関しては奇妙な恐怖心が植えつけられていた。



いつの間にか、幸一の前には黒い軽自動車が走っていた。だいぶ安全運転をしていたのだろう、追いついたようだった。雨は先ほどより強くなり、幸一はワイパーの強さを一段上げてフロントガラスをぬぐった。
車内の時計を見ると時刻は午後11時45分。周りは暗いが、前に車も走っていたということもあって、孤独感はなくなっていた。


ガタン、キィィィィィ

突然前の軽のブレーキランプが点灯し、車が止まった。幸一もあわててブレーキを踏み、後ろに並んだ。
故障かな、幸一は思った。暗くてよく見えなかったがランプの点灯する前に聞いた音は部品か何かが外れた音に聞こえた。
軽からは、エンジンをふかす、ドゥルルルン、ドゥルルルン、という音は響いたものの、一向に動く気配はなかった。そしてしばらくすると、運転席からダウンを着た若い女が降りた。女は目深にフードをかぶって自分の車のまわりをまわって状況を確認すると小走りで幸一の元までやってきた。幸一は窓を開けた。

「すいません、ちょっと車の調子が悪くて」
年は20代前半くらいだろうか、茶色に染まった肩までかかる髪からは水が滴り落ちてずぶ濡れだ。こんな場所で運がない。
「脇に動かすのを手伝ってもらえませんか?」

幸一は、エンジンを止めるようと鍵に手を触れた。
その瞬間、嫌な予感がした。


ずぶ濡れ?たった数メートル歩いただけで?


幸一は、ギアを切り替えアクセルを踏みこんで後ろに下がった。
そして再びをギアを切り替えると対向車線にはみ出し、一気に女の脇をすり抜けて前進した。バックミラーで女を確認することもせず、一刻も早くその場を離れなければという一心で。


そう、女はずぶ濡れだった。
まるで何日間も土砂降りの雨の中で放置されていたかのように。


やがてトンネルに差し掛かると、オレンジの明かりが車内に差し込んだ。早く人のいる場所に行かなければ。焦る気持ちでアクセルをさらに踏み込む。
長い直線の先に出口が見えたときだった。幸一は背筋がぞくりとするような悪寒を感じた。車内が急激に寒くなり、温度が下がっていくのを感じた。

「ねえ、なんで逃げたの?」
誰もいないはずの助手席から声がした。ついさっき聞いたばかりの声だ。

全身から汗が噴き出した。今まで感じたことのない恐怖。

「ねえ、なんで逃げたの?」
もう一度声をかけられ、無意識に声のするほうを見た。
体の芯まで冷えているに違いない、ずぶ濡れの女が幸一を見ていた。

時速100キロを超える車の中で、幸一は吸い込まれるようにその女に釘付けになり、動けなかった。

女がすーっと白い手を伸ばしてきた刹那、頭をよぎったのは家で待つカオルのことだった。
がっちりとした体の厚い胸板。2人で手をつないでいると訝しげに周囲からみられたが関係なかった。頼れるパートナーのカオル。

「ごめん、女に興味はなくて」。
恐怖心をこらえて、幸一がしぼり出した言葉は本心だった。

すると、ずぶ濡れ女は大きな瞳をさらにカッと見開いた。
さらに口も大きく開き、驚きを隠せないという表情は、ホラー映画でよく見るようなシーンだった。

そして女はすーっと消えていった。



時刻は午前0時をまわったところだった。

※この小説(ノベル)"トンネルの女"の著作権はHareruyaさんに属します。

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この小説(ノベル)へのコメント (2件)

藍田 楠

'13年11月26日 15:27

この小説(ノベル)を評価しました:おもしろい

この短い中にきっちり面白い物語が入ってる!
最初にふと、カオルって少し古臭い名前だな、と
チラリと感じたんだけど見事にやられました。
そっか、オチだったのか!上手いなあ、と拍手。

後味も良かったです。 幽霊は生きている人間の
本心が読めるのかも知れませんが、読んでるこちらが
彼女の目線に入り込んじゃって、「えええ?マジー!?」と
のけ反ってしまいます。

幽霊の女も、女なんですね!女としては生きてるから、怖さが
一瞬で溶けた感じ。

憑き物が落ちるとはこんな感じかしらん。

見事な一筆、美味しく頂かせてもらいました。
また拝見しに参ります。頑張ってくださいね。

Hareruya

'13年12月8日 00:05

コメントありがとうございます。
小説って難しいなぁ、、、と思いながら書きました。

また遊びにきてくださいw

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