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小説(ノベル)

ハッピーエンド (完結作品)

作:Re+(れたす) / カテゴリ:未分類 / 投稿日:'18年11月27日 01:47
ページ数:1ページ / 表示回数:回 / 総合評価:0 / コメント:0件

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あの日、彼はとても青ざめた顔をしていた。私が消えてしまう夢を見たようだ。メラメラと燃える松明の朱に照らされた、絶望に満ちたその蒼い瞳が私を見据えて縋りつく。私はこの身を懸ける程愛した彼に、最期の優しい嘘をついた。私が映り込んだその瞳を心に刻み付けて、いつもの様に敬愛の意を込めて手の甲にキスをして。そしてこう言ったのだ。『私の事は忘れて』と。
翌日、私は彼への恋心を断つべく腰程まで伸ばしていた髪を切った。そして、眼前でまだ産まれたばかりの赤子のようなまばゆさを放つ明けの明星に一筋の希望を託しながら、戦線に発った。
その十日後、私は宿敵による絶大な力によって命を落とすこととなった。死を覚悟し、未練はないつもりだった。しかし、成仏することが出来なかったようでいつの間にか思念体となっていた。この世を去るつもりでいた私は、迷いに迷った挙句、彼の元を訪ねてみる事にした。
彼は、毎晩あの日の悪夢に苛まれていた。そしてそれは次第に彼の心をじわじわと蝕んでいった。終いには、私が愛したあの笑顔まで失われてしまった。もしも恋心を告げていたら、彼は救われたのだろうか。私の身勝手な我儘のせいだと思った。
思念体である私では何も出来ない。消えることも叶わず、かといって彼のことが気掛かりで行く宛もない。耐え難い苦痛に苛まれ続ける日々だった。一方で、永遠かのように思えたその時間に終わりを告げる死神は、刻一刻と迫って来ていたのだった。

ある満月の夜、いつもの様に彼の部屋で様子を見守っていると、突如脳内に嗄(しわが)れた声が響いた。驚いて辺りを見回すと、薄らに残った過去の美貌を覗かせつつ、それを遮るような鍔(つば)の広い三角帽子を被った如何にも妖しげな老婆が視界の端に映り込んだ。彼女は私と目が合うと、口元を不気味に釣り上げながらこう言った。『彼を助けたいか』と。その言葉を聞いた途端、思念体であるにも関わらず身体が震えるような錯覚を覚えた。これは『悪魔の囁き』だと。久しく戦闘に身を投じていなかった身体が、あの頃を思い出すように感覚を研ぎ澄ましながらそう叫んだ。
『助けたいが、その為には等しい対価がいるのだろう』と私は常套句で返した。彼女は口元を変えずにこう言った。『願いを叶えた者の存在は、跡形もなく消える。そして、その者の魂は宝石と化す』と。私は唇を噛み締めながら、彼の方へ視線を見やった。彼はまた悪夢にうなされていて、老婆に気が付く気配もなかった。神聖なる王家に仕えた私が、己の未熟さによって悪魔の囁きに耳を傾けてしまっている。ならず者に成り下がったような気分だった。
しかし、私はもう思念体だ。彼に干渉することも、共に未来を歩むことも叶わない。たとえ己を甦らせたとしても、禁忌を犯した身では彼に合わせる顔が無い。穢れてしまった私など、美しさの欠けらも無いだろう。ならばいっそ、彼が二度と私の悪夢に囚われないように、彼の心からも消え去ってしまいたい。私の完全なる死を以(もっ)て、彼の笑顔を取り戻したい。彼と私が共に過ごした時間は、この魂の中にさえあればいいと思った。私は、あの戦場で身を焼かれた時など比べ物にならない苦痛の中、身を切られる思いで禁忌を犯した。
今度こそ、『永遠の別れ』だ。私は彼の傍(かたわ)らに寄り、手の甲を近付けてキスをした。いつもこうして、彼と就寝の挨拶を交わしていた。そして一呼吸置いてから、未だに眉をしかめたままの額にもそっと唇を落とした。本当は、いつもこうしたいと憧れていた。今だけはただただ純粋に、人を愛した少女でありたかった。
溢れてこぼれた涙も、彼の滑らかな白肌を濡らすことなく貫通して落ちていく。その光景は、大波を立てながらも理性を保っていた己の感情を、悲しみの深淵(しんえん)へと誘(いざな)うにはたわい無かった。全ての感情を彼に注ぐように、暫く唇を当て続けていた。そして、私は老婆との契約通りに願いを叶え、代償として宝石となったのだった。

あれから、かれこれ数千年の時が過ぎた。その間に、私の持ち主は実に星の数に匹敵するかのような人数となっていた。 この世界の古今東西に連れ回された私は、いつしか人々に不思議な効果をもたらす宝石となっていた。というのも、愛する彼の笑顔を守りたいと願った私の魂が宿っているからなのか、持ち主となった者達は皆揃って美しく笑えるようになるのだ。そして、『彼の悪夢を消し去りたい』という私の願いの象徴なのか、私の色はほんのりと灰のモヤを帯びた白色となっていた。それから、私の輝きは持ち主が髪を切る度に変わっていった。これも、生前の私の強い意志によるものなのだろう。なんとも不思議なことになってしまったとつくづく思う日々だった。

時は流れ、今の持ち主は私をマントの胸元に飾っては毎日楽しそうに笑顔を浮かべながら公務をしている。そんな彼のお守り役を務めるようになってからというものの、私は常に悩みを抱えていた。禁忌を犯した罰が巡り巡ってやってきたのかは分からない。ただ幸か不幸か、彼は私が唯一愛していた主の面影を讃えていた。吸い込まれそうな蒼い瞳に、雪のような白肌。齢(よわい)こそ九つは上であるが、なればこその乙女心をくすぐられるものがあった。
決死の思いで願いを叶えたというのに、この仕打ちは如何なものか。私は人ならざる者であるのをいいことに、神に舌打ちをしながらも彼の笑顔に魅了されていくのであった…。

※この小説(ノベル)"ハッピーエンド"の著作権はRe+(れたす)さんに属します。

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