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小説(ノベル)

まにまに (執筆中)

作:春星 / カテゴリ:ショートショート / 投稿日:'09年10月11日 00:38
ページ数:3ページ / 表示回数:1回 / 総合評価:1 / コメント:2件

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第二章 雨

 ねえ雨がやまないよ、と誰かが言った。

 空一面に灰色の雲が広がり、サラサラと雨を降らせていた。時に雨は強くなり、風が吹いた。やむことはなくても、小降りになることはあった。この世界に晴れはない。
 坊やと婆やは、二人がやっとたっていられるくらいの、小さな島にいた。雨がどんどん降ってきて、一歩踏み出せば靴に水が染みてくる。
 婆やは傘をさしていた。坊やが濡れないためである。
 「坊ちゃん、どうかお履物をを汚すようなことはお考えしまするな」
 「ボクはそんなことしないよ? だって、この靴はお父さんからの最初で最後の贈り物なんだ」
 坊やは笑顔で言った。けれど、婆やには無理に笑っているように見えた。それは雨の所為かもしれない。
 婆やが何も言わないでいると、坊やが婆やの袖を引っ張った。
 「あれなに?」坊やは指差した。
 そこには微かな人影があった。
 「あれは船でございます。小さな船でございます」
 船は坊やたちに向かっていた。
 最初は小さかった船も、目の前まで来ると、大層なものだった。中に中年くらいの男がいた。
 「その島はもう沈む。早く船に乗るといい」
 そう言って、男は梯子を出した。
 「ご親切に、ありがとうございます」
 婆やが言うと、坊やは梯子をのぼっていった。後から、婆やものぼった。
 船には、男と、女と、子どもがいた。明かりが小さなライトしかない所為で、顔がはっきりと見えなかった。
 「俺の家族だ」
 女は優しく笑って会釈した。坊やと婆やも会釈した。
 「こんにちは!」
 元気な子どもは、坊やもよりも小さかった。坊やよりも笑顔で、嬉しそうに笑っていた。それを見て、婆やは懐かしくなった。坊やが、心から喜んで笑わなくなったからである。
 「しかし、お前さん達船は持ってないのかい?」
 「船を持ってないといけないの?」
 「島はもう殆ど沈んでる。船がなきゃ死んじまうよ」
 「どうして、島が次々に沈んでいるの?」
 坊やが訊くと、男と女は驚いた表情を見せた。
 「雨がやまないからだよ」
 雨は今も降り続けていた。
 「今は小雨だから大したことないが、酷いときは船ごとひっくり返っちまう」
 「晴れたことはないの?」
 「雲が切れことがないんだ。けど、雲の上には本当に太陽があるらしい」
 「太陽を見たことがないの?」
 すると、さっきまで人の影が見えるやっとの暗さだったのが、薄くなった雲を通して、太陽の光が溢れ出し明るくなった。
 「太陽だ! 父ちゃん太陽だよ! あれがきっと太陽なんだよ!」
 「こりゃ、すげえや! 太陽は本当にあったんだな!」
 「やっとあんたの顔が見れたよ。あんた、あんた……」
 呆然と眺める坊やと婆やとは裏腹に、男と子どもははしゃぎ、女は嬉しさのあまり泣き出していた。小雨がよく見える。
 「太陽は、こんなにも美しいものなんだなあ。この人生に悔いなしだ!」
 「いいかい、こんなんはもう一生見れないんだ。今のうちによく見て忘れずにいなさい」
 「わかったよ母ちゃん! 太陽を忘れないよ! 母ちゃんの顔も! 父ちゃんの顔も! 絶対に忘れないよ!」
 女は目を丸くすると、子どもを抱きしめてさらに泣き出した。まるで、もう、すぐに死んでしまうかのような境遇である。坊やは愕然としたまま、家族のやり取りを見つめていた。
 「今日は客もいることだ。ぱーっと盛大に食おう!」
 「そうだね、今すぐ食事の準備をするよ」
 「早速釣るぞ!」
 「父ちゃん見て! 魚が見えるよ!」
 「今日は大漁だぞ!」
 泣き笑う家族を見て、坊やは寂しくなった。
 「坊ちゃん、なぜ泣くのです?」
 いつの間にか、坊やの目はまっ赤になって、涙を流していた。
 「泣いてなんかないよ」
 「しかし……」
 「婆や、そう見えるのは雨の所為だ。僕は泣いてなんかない」
 坊やは、思い出せなかった。父親の顔がどんなに頑張っても、思い出せなかった。今まで気にしたことなんてなかったのに、今になって、目の前の家族を見て、恋しくなっていた。
 見渡せば、あちらこちらに船がある。小さいのから大きいのまで。船の上では、家族、友人、恋人らが喜び、感涙し、釣りをする者もいれば、泳ぎ始めるものもいた。互いに手を振り合い、存在を教え合い、叫び合い、この一時を目一杯幸せに注ぎ込んでいた。
 十分くらいだった。人々が、太陽の存在を確認できたのは、十分。
 「おい、ラジオつけろ!」
 言われ、子どもが急いでラジオをつけた。
 ラジオでは、太陽の話で持ち切りだった。科学者、気象観測者が集まり、前代未聞の現象について語り合っていた。仕舞いには、超能力者と名乗るものが現れ、全ては自分のおかげだといい始めた。宗教の放送番組では、全ては神のおかげだという。
 「誰のおかげでもいい! 最高の人生だった!」
 「もう、なんでも乗り越えられる気がするよ!」
 ラジオを聴きながら、食事が並べられた。
 「御馳走だ! 御馳走だ! お兄ちゃんも、たっくさん食べていいんだからね!」
 子どもが坊やに言った。坊やは子どもが羨ましかった。だから、御馳走なんてどうでもよかった。
 「わざわざ、ありがとうございます」
 婆やが礼を言った。
 「こんなめでたい日に巡り会ったのもなにかの縁さ。気にするな」
 食事は、全て魚だった。考えれば当然で、野菜がとれるはずもなく、はたまた家畜を飼う余裕もないのだ。
 「こんなことなら、肉を買っておけば良かったな」
 「そうだねえ」
 「母ちゃん、食べていい?」
 「ああ、いいよ」
 「いっただっきまーす!」
 薄暗い食事だった。それでも、声は元気で、暖かかった。
 食事を終えると、坊やと婆やには寝袋が用意された。家族ははしゃぎ疲れたのか、すぐに眠りについてしまった。
 「坊ちゃん、長居は無用でございます。そろそろお帰りに」
 「うん。帰ろう」
 坊やと婆やは梯子を降りた。そこはもう、島が沈んだ後だった。
 坊やは足下を濡らしながら、歩き出した。婆やは、何も言わなかった。
 雨が強くなり、家族が目を覚ました。すると、そこに坊やと婆やの姿はない。空の寝袋がたたまれていた。急いで船周辺を探したが、既に坊やの姿はなかった。

※この小説(ノベル)"まにまに"の著作権は春星さんに属します。

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切ない 1
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この小説(ノベル)へのコメント (2件)

トッポジージョ

'11年12月6日 19:36

この小説(ノベル)を評価しました:切ない

突然に失礼します。
しばらく前に、コメントを戴いた者です。

坊やがフッと居なくなる感じが、好きです。

春星

'11年12月7日 19:07

>トッポジージョさん
こ、こんな放置状態の小説を読んでくださっているなんて…嬉しい反面お恥ずかしい(;´Д`)

これ、一応最後まで書けば坊やが何者かわかるはずだったんですが、
全然進んでないっていう。ごめんなさい。
そうなんです。フッと居なくなる不思議な存在なんですねー

コメントありがとうございました

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