小説(ノベル)
わすれられたおもちゃとねこ (完結作品)
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下水での出会い
ぼくを乗せたネコは、家を出ると
すぐに角を曲がってまっすぐ飛ぶように進んでいった。
「ここからは、下水の道を行く。
真暗なトンネルみたいなもんだ。
怖くなっても帰れないと思えよ。
大丈夫か?」
ネコは、前をむいたまま言った。
ぼくはネコの首にしっかりつかまると、「うん」とだけ
答えた。ネコは、「よし」と言って、
開けられっぱなしのマンホールの中に飛び降りた。
((わーーーーーーッ))
確かに真暗で何も見えない。
こんな所を飛び降りたことなんて初めてだった。
ぼくは、その瞬間も声が出なくなってしまって
ふるえたまま、目を閉じていた。
「おい、おい、大丈夫か」
「…あ…」
目を覚ますとネコが心配そうにぼくを、見ている。
ネコの首から落ちて気を失ってしまったらしい。
「やっぱり、こわかったんじゃないか。
帰るなら一人で帰れよ?」
「…か、帰らないよ!!ぼくは、絶対おばあちゃんに
会ってぼくのことを思い出してもらうんだ!!」
ぼくは急いで起き上がって、再びネコの背に飛び乗った。
「ほう、いい度胸だな」
顔に大きな傷を付けた別のネコが、現れて言った。
「!?」
「そんなにびっくりしなくていい。仲間のノラネコだよ。」
「なんだ、クリフトの子供か?」
「ク、クリフト?…て??」
「俺の名前だ。この下水じゃこう呼ばれてる」
ぼくを連れてきたこのネコが、『クリフト』らしい。
クリフトは、傷を持ったネコにぼくのことを話している
らしかったけど、ぼくにはわからなかった(←だってネコの
言葉だったからね)。
クリフトは、ぼくに言った。
「まあ、お前は気にいらないかもしれんが、
俺の子供ってことにしといたぞ。その方が説明が面倒に
ならなくて済むし、ここを楽に使えるからな。」
「いいよ。ぼくもクリフトのこと、「お父さん」って
呼んでもいい??」
「ああ、好きにしろ」
クリフトは、ぶっきらぼうに答えた。
ぼくとお父さん(クリフトのこと)と傷を持った
ノラネコは、そのまま暗い下水を歩いていった。
しばらく行くと、右側に梯子(はしご)があった。
お父さんは言った。
「ここから出れば、ノラネコのまちに行ける。
ベース、お前も行くか?」
お父さんがふりかえると、傷をもったネコは、言った。
「いや、おれはただここを散歩してるだけさ。
そろそろメシ時(ドキ)だろ?
行く所があるんでね。ここでお別れだよ。
じゃあな、おちびさん、クリフト」
ぼくはお父さんに言った。
「さっきのネコのおじさん、『ベース』さんって言うんだ」
「え?ああそうだよ。人間に捨てられたんだ。
もとの名前も捨てたって言ってたからな、
俺がつけてやった。顔の傷がベース(楽器)みたいだろ。
だから『ベース』…。…っとよけいなことを言ったかな。
さあ、先を急ごう」
ぼくとお父さんは、梯子を登って行った。
※この小説(ノベル)"わすれられたおもちゃとねこ"の著作権はミークス・クローバーさんに属します。
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